私の作品制作の基本姿勢として、「素材にとらわれない」ということがあります。
美しいと思えるもの、それが装身具として生かされそうなものはできるだけ使ってみたい、
という願望があります。


そんな中、6年前に出会った素材が、クジラのひげ(クジラべっこう)でした。
故郷である和歌山県のクジラ博物館で展示してあったクジラのひげにたまたま出会った私は、
その美しさに魅了されてしまいました。

それを装身具の材料として使えないかと思った私は、調べていくうちにクジラのひげが、
九州では「クジラべっこう」という形で工芸品として用いられていること、
しかも、クジラの捕獲が年々制限されつつある今日では、その工芸技術を持った人は最早お一人しかいなく、
ほとんど消えてなくなりつつあるという事実を思い知らされたのです。

急いで私は、その技術者のもとに馳せ参じ、その工芸技術を教えていただくとともに、
クジラのひげを装身具として活かす技術も習得していきました。


私は、このクジラのひげという素材との出会いを、
“素材を選ばずに使っていた者が「素材に選ばれた」のではないか”
というような不思議な感覚を覚えております。
今では幻となりつつある伝統工芸・クジラべっこうの技術を装身具として新たに生かすとともに、
その美しさが広く、人々に認知されることを願ってやみません。